2015年8月28日(金)、東京・品川インターシティホールにおいて、 マイナンバーの利活用に関するセミナーが開かれた。
「マイナンバーの利活用による成長戦略の方策〜安心で便利な本人確認インフラの構築が、オンラインを利用した“電子行政サービス”や“モバイルサービス”の利用拡大へのキーに〜」と題したこのセミナー、東京大学大学院情報学環 セキュア情報化社会研究グループ(SISOC-TOKYO)、東京電機大学 サイバーセキュリティ学特別コース(CySEC)、日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)の共催により、Nok Nok Labs, Inc.、株式会社ディー・ディー・エスの協賛を受け開催された。
当日は、200人の席が満席になるほどの盛況ぶりで、関心の高さがうかがえた。セミナーでは、東京大学 大学院情報学環 特任教授、東京電機大学未来科学部教授、東京大学名誉教授、(社)日本スマートフォンセキュリティ協会会長の安田浩氏による開催の挨拶の後、4つの講演が行われた。
【開催挨拶】
マイナンバーの利活用による成長戦略の方策〜マイナンバーとセキュリティ
東京大学 大学院情報学環 特任教授 東京電機大学未来科学部教授
東京大学名誉教授(社)日本スマートフォンセキュリティ協会会長 安田 浩 教授
安田教授は、まず「覇権空間の変遷と人間機能拡張の歴史」について説明。人類が陸から海、空、宇宙へと活用空間を広げるには、交通・土木、造船、航空機、ロケットという覇権の源があったが、現在はICTやWebの発達により活用空間がサイバーに広がり、目に見えない空間の支配が始まっていると述べた。
また、機械や機器の進歩によって、人間の機能が拡張されてきたが、現在はコンピュータにより処理・判断といった頭脳機能が拡張。サイバーセキュリティにより安心・安全の機能も拡張してきたと説明した。
次に、Web関連の技術の進化が放送と通信の融合を招いたと指摘。Web3.0の時代には、蓄積された情報と推測を活用すれば、いずれ未来が見え、タイムマシンを得たことになるのではと述べ、サイバー空間の利活用のためには、国内での情報の収集家と迅速なアクセス、グローバルに最新の情報への迅速なアクセスなど、何が必要になるかを示した。
続いて、セキュリティの必要性とマイナンバーについて説明。サイバー空間の利活用は時代の必然であり、セキュリティが何より重要になると説明。物理空間では同じものが存在しないが、今のサイバー空間ではなりすましが可能で、かつ複数同時存在が可能であることが問題であること、その解決のためには、同じものを作らない、すなわちマイナンバーの番号が重複しない制度が必要であり、人(法人)という属性に対する制度が必要であることが重要だと述べた。
公的個人認証サービス、個人番号カードの利活用について
東京大学 大学院情報学環 須藤 修 教授
開催の挨拶に続き、「公的個人認証サービス、個人番号カードの利活用について」と題して、東京大学 大学院情報学環 須藤修教授による講演が行われた。
須藤教授は、まず番号制度における情報連携の概要を説明。マイナンバーの個人番号カードについて、社会保障や税、災害対策分野以外にも、法令によって他分野に利用できる可能性があると述べた。
次に、マイナポータルのサービスやシステムの全体イメージと、総務省におけるこれまでの検討体制について説明。予防接種や年金などのお知らせを受け取ったり、行政機関などの手続きを一括ですませたりといったワンストップサービスが可能になると述べ、電子私書箱や電子決済サービスなどの可能性も示した。
しかし、産業との連携を実現するにはID・パスワード方式では不完全であり、複数の生体認証システムを使うなど、高度なセキュリティが重要になることを強調した。
続いて、電子私書箱によるワンストップサービスの実現に向けた取組として、日本郵便、NHK、日本生命等の協力で検証した「引越し一斉通知のワンストップサービス」を紹介。検証により明確になった課題を示した。
最後に、個人番号カードの具体的な利活用の事例を紹介。健康保険資格のオンライン確認やクレジット決済、テレビ・ICカードを活用した防災対策システムなどを説明し、高齢者も身近なテレビなら利用しやすいと指摘。
将来はゲノムチェックによりアミノインデックスで早期がんの発見・治療に役立てるなど、ライフサイエンスと結びついて社会システムが変わる可能性があることに触れ、こうしたシステムが進むためにはセキュリティが重要なキーになると述べた。
マイナンバー制度の利活用に伴う法務上の課題
片岡総合法律事務所 弁護士 高松 志直 氏
続いて、「マイナンバー制度の利活用に伴う法務上の課題」と題して、片岡総合法律事務所 弁護士 高松志直氏が講演した。
高松氏は、最初にマイナンバー制度の概要や社会的意義を改めて確認。マイナンバーの利用でポイントになるのは、税務分野と社会保障分野の業務に法令で許されており、それ以外のケース以外には取得も利用もできないことであることを説明。“楔”がかかっているものであり、利活用に際してはそれを解いていく議論が大切になると述べた。
今後の利活用のスケジュールとして、預貯金の個人番号による管理を金融機関に義務づけることが現在国会で審議されていること、将来的に、戸籍や不動産登記、自動車登録に利用を拡大し、個人番号カードのワンカード化が進むことも述べた。
次に、個人番号の取得に関する法務上の問題点について解説。実務に先行して個人番号を取得するケースが頻発するとして、個人番号の取扱いの周知とともに、セキュリティへの配慮が必要であると述べた。
また、“なりすまし”が起こらないために番号確認と身元確認について、どのような方法が求められるかを説明。法令上はオンラインによる本人確認の枠組みも用意されており、認証方法の工夫が求められるとした。
最後に、個人番号の利用範囲や提供の制限、個人番号の保管制限についても説明。個人番号は「廃棄する必要のある情報」という点に法務上の大きな特色があり、実務上一定のタームで「安全な廃棄ニーズ」が発生すると述べた。
決済サービスの課題と今後の展望
株式会社野村総合研究所 金融ソリューション事業本部 金融ソリューション事業二部
上級コンサルタント 宮居 雅宣 氏
続いて、「決済サービスの課題と今後の展望」と題して、株式会社野村総合研究所 金融ソリューション事業本部 金融ソリューション事業二部 上級コンサルタント 宮居雅宣氏が講演した。
まず宮居氏は、決済サービスは装置産業であり、Visa、MasterCard、JCB、AMEX、銀聯などの国際ブランド決済カードは、世界的にカード・端末・ネットワークの共用インフラを整備済で、技術の進化に伴って、国際互換性を確保しながらセキュリティと利便性の向上を図ってきていることを説明。非接触IC化によって、世界的規模でモバイルへの決済機能搭載が進むことが期待されていると述べた。
次に、ITを活用した新たな決済サービスの事例を紹介。バーコード等でIDをサーバに連携し、事前登録済の決済手段で支払うID連携決済が多いが、音声認識や指紋、虹彩などの生体認証も活用され始めていることを説明。顔パス決済やBeacon決済も紹介した。
ただ、不正や回収など決済事業者の経験に照らすと、決済サービスは容易に参入できる事業ではないと強調。特に、支払意思確認や本人確認を証明する責任は決済事業者側にあり、本人確認があいまいな決済サービスは事業者にとって危険であり、リスクと対策を充分に考慮した技術の活用検討が不可欠であると述べた。
最後に、モバイル決済サービスの展望として、Apple PayやSamsung Pay、Android Payの決済サービスについて解説した。
FIDO普及の現状 〜オンライン本人確認のグローバルトレンド〜
FIDO Alliance Board member Nok Nok Labs, Inc. 社長兼CEO フィリップ・M・ダンケルバーガー 氏
最後のプログラムでは、「FIDO普及の現状〜オンライン本人確認のグローバルトレンド〜」と題して、FIDO Alliance Board member Nok Nok Labs, Inc. 社長兼CEO フィリップ・M・ダンケルバーガー氏が講演した。
ダンゲルバーガー氏は最初に、生体認証の市場が大きく成長していることを説明。特に指紋認証の伸びがトップで、Nok Nok Labsの顧客からも問い合わせが増加。新しいデバイスやOSの多く製品に生体認証が使われ、2019年にはスマートフォンの90%には何らかの生体認証センサーが搭載されることが予想されていると述べた。
FIDOは、低いコストでセキュリティを強化でき、パスワードを入力するより便利であるといった特長があり、使ってみればシンプルで速いことがわかるとダンゲルバーガー氏はアピール。2013年に6社でスタートして、今日では世界で210社以上がアライアンスに加盟している。毎日10社が申請しており、すでにアメリカとイギリスの政府機関もアライアンスに参加していると説明した。
2014年から2015年の間に、FIDO対応のデバイスは驚くべき勢いで伸び、前年の1億1600万台から8億800万台に増え、全デバイスの61.6%を占めているとグラフで提示。モバイルや金融、eコマース、ヘルスケア、政府など多くの組織が一丸となって問題の解決を目指し、多くのアプリに対応させ、今後もより使いやすく、より安全で、適切な認証ができるように、FIDOを推進していくと述べた。
【閉会挨拶】
最後に、安田浩教授が登壇。マイナンバーなど新しいサービスがどんどん活用される中で、技術を発展させ、大学ではセキュリティを研究している。文系・理系同士議論を深めて、より良い技術、安全なシステムを作り上げていきたいと考えていると挨拶。今後もこうしたセミナーや研究会を開いていきたいと述べた。